2012/06/23

『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』



介護ヘルス産業というのは、絶対ニーズとして避けられんだろう。(2009年12月16日
プロのセックスワーカーによる新しい公娼制としての「介護ヘルス」が、世の中にあってもいいのかもしれない…(2012年3月21日

と、私は以前書いた。
そんな経緯から『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』を読んだ。

 旧来型の反社会的な売春労働=セックス・ワークと区別し、体系化された専門知識と技術を武器にして、個人の性に関する問題を、社会的な手段で解決する仕事を、性に関する尊厳と自立を護るための仕事=「性護」と名づけました。
というわけで、「性護」の知識や技術を「臨床性護学」という学問に体系化して、学ぶことができるようにしたという。

プロの育成、ということ。
現時点では「射精介助」「性護」は非常識なようで、しかし長い目でみると、ニーズは間違いなくあるし、将来的には有望なサービスだろう。

「性産業の社会化」、という前向きな提言。
これまで、性サービスには無かった「社会性」「倫理・衛生管理の基準」という明確なルールの導入。
それによる、性産業の自由化。

多くの人がその必要性を認識できない、無知からくる「性蒙社会」に光を投げる、著者は開拓者のひとりだろう。しかし、
 「障害者の性」を最初に問題化したのは、介護・福祉業界の人間ではありません。そう、性風俗産業で働く、セックス・ワーカーの女性たちです。
彼女たちが、自称「福祉の専門家」である社会福祉士やケアマネージャー、地方自治体の障害福祉課の職員や厚生労働省の官僚が「全く考えもしなかった」「想像もできなかった」ことを、「解決すべき問題」として、社会に提示したのです。…

この本では「恋愛以前」のセックスの話が語られている。それは今の時代、とても大事なことだろう。
 愛や結婚、セックスといった問題は、そもそも障害者だけの問題ではありません。
健常者でも、恋愛をしたくてもできない人、セックスをしたくてもできない人は、星の数ほどいます。逆に、障害があっても、恋愛をし、セックスをし、結婚をしている人は、星の数ほどいます。障害があろうがなかろうが、「できる人はできるし、できない人はできない」というだけの話です。
「結果の平等」ではなく「機会の平等」に価値を置く現代社会においては、障害者が健常者と同じスタートラインから、恋愛・セックス・結婚という目標に向けて走り出すこと(もしくは走り出さないこと)を自己決定するために、最低限必要な社会資源(情報、教育、サービス、制度)のみを提供し、後は自己責任と自己判断に任せる、という姿勢が、最も公正です。

もちろん、世の中に「頽廃」がある以上、このサービスの実現によって、全ての性にまつわる問題が解決するわけではないだろう。そこで解決しない問題は、今後また更に議論を重ねることで、新たな提言が生み出されるだろう。

この本に書いてあることは、とても革命的で重要なことにも関わらず、真意が広く理解されるまで、根気強く、人びとに啓蒙していくことも必要になってくる。

 セクシャル・リテラシーとは
◆メディアに流れる性情報を、感情的にならず、冷静かつ批判的に読み解く力
◆性の持つ多様な側面、それぞれのプラス面とマイナス面を、客観的に理解できる力
◆セックスのリスクだけではなく、リターンについても理解できる力
◆自分の性的価値観を認識し、肯定できる力
◆他人の性的価値観を理解し、尊重できる力
◆パートナーと、円満な性生活を送ることのできる力
現代社会には、セクシャル・リテラシーを体系的に教えるためのノウハウやインフラは存在しません。そのため、ほとんどの人が、セクシャル・リテラシーが事実上ゼロの状態で、社会生活を送ることを余儀なくされています。…
 …性に関する議論を行なう際は、参加者全員が、「自分自身の性的価値観の傾向と限界を認識し、他者の性的価値観を尊重する」という、最低限度のセクシャル・リテラシーを身につけた上で、議論に挑む必要があります。

このセクシャル・リテラシーを踏まえた上で言うと。
性護士は社会に必要だと思うが、私自身がプロの性護士目指すかというと、否、である。

私は、男であれ女であれ、他人の陰部は、基本的に見たくない、触れるのも基本的に嫌だという、これは個人の性癖に関わるあたりかもしれない。そんな私が例えば辛抱して性護の「サービスを、娯楽ではなく、ケアとして提供」した場合、上から目線の対応にならざるを得ず、それでは「ケア」にはならないということで。
…それが明治以降の純潔教育と、30~40年程度の「恋愛ありき」の常識の弊害だとされても、それはそれで仕方がないだろう。

そんなわけで。
近頃、訪問先の利用者からのセクハラに辟易としていたところ()。
ともすれば、人間は片手の指三本で相手の首を絞めてしまえる。絞め殺すほどにまで深い間柄でもない相手に、大事な自分の片手をわざわざ殺しで汚さずとも、口八丁で利用者を黙らせる材料としても、この本は重宝した。

新書『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』:一般社団法人ホワイトハンズ